2016年4月15日金曜日

<ゼンヒラノ演技ノート*第10話ーその1>

<ゼンヒラノ演技ノート*第10話ーその1>

『注意の集中について』
どんな職業でも名人と云われる人たちの集中力はすごい。
昔、東京目白に「翁」というそば屋があった。
その主人のやや前かがみになって、そばの茹で加減を見る眼つきは静かだが、異常なものを感じさせた。
出てきたそばの盛り付けの美しさに、深く感動させられた。
その後日本一の蕎麦作りの名人と云われるようになった。
スポーツの分野でも集中力なくして世界記録は無理、ここ一番の集中力と云われた。
千代の富士、
バターボックスに立つイチロー、
ラクビーの人気選手五郎丸選手等々。
ましてや、俳優はそこに存在しないものを、
いつ、どこで、誰が、何を、如何にしたかを
集中力で現実のものとしなければならない。
(年の暮れ雪の降る寒空のもと、山里離れた墓石の前で、足元もおぼつかない痩せ細った老人が、昔の愛する人の面影を偲びながら赤い花を添え、手を合わせていた。)

俳優は想像力を使ってこれらのことを自分にとって、
今ここに現実のものとするには、集中力が鍵である。

話はそれるが、僕の演出を全面的に協力出演してくれたペニー ・アレンという女優がいた。
「彼女は、ニューヨークで一番才能がある女優だ。」
とストラスバーグは言っていた。
ある日、彼がメンバー達に
「ペニーが6・7年前床を拭いていたのを覚えている人は?」
と聞いた。
殆ど全員が手を挙げた。
僕はペニーに
「床を拭いている時、何をやってたんだ?」
と聞いてみた。
「ただ、床を拭いてただけよ」
とペニー。
彼女の稀なる集中力の凄さを実感させられた。
彼女の深い集中力は天からの贈り物、人間の魂の扉を開く鍵なのかもしれない。
時々、マーロン・ブランドの演技に、この深さを見ることがある。

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